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未来へのヒント

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多様性も共生も“当たり前”だった僕の地元

 江戸川区・葛西で生まれた俳優の須賀健太さん。4歳から俳優活動をスタートし、数々の人気作品に出演する中で、幼少期、学生時代を過ごした江戸川区の思い出から、俳優を続ける上での葛藤、思い描く共生社会像についても話していただきました。

ご経歴を教えてください。

 4歳の頃に子役事務所に所属し、俳優としてデビューしました。7歳の時に、香取慎吾さん主演のテレビドラマ『人にやさしく』(2002年フジテレビ系・月9)に出演させていただいたことがきっかけで、その後、数多くの作品にお声がけいただけるようになりました。映画にも、『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)、映画初主演となる『花田少年史 幽霊と秘密のトンネル』(2006)などに出演。その後、ドラマ・映画を中心に活動していましたが、19歳の頃からは舞台にも挑戦しています。21歳の頃から3年間主役を務めさせていただいた、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』(2016〜2018)をはじめ、そこからは、映像作品にかかわらず、広く演技のお仕事をやらせていただいています。

須賀さんの江戸川区エピソードをあれば教えてください。

 仕事をやりつつだったので、学校を早退や遅刻していくことも多かったですが、周囲の人がすごく応援してくれて、非常に理解があるやりやすい環境でした。『人にやさしく』で多くの人に知ってもらえたのが、小学1年生の時。今でも鮮明に覚えているのですが、1話が放送された後、学校の教室の前に人だかりができていました。最初は自分を見に来ているとは夢にも思わなかったのですが、こんなに影響力があるのかと衝撃をうけましたね。

「帰ってきた感」がある東京の下町

 緑が多いというのは、都心で仕事や生活する機会が多くなった今、より感じますね。葛西臨海公園をはじめ、広大な公園がたくさんある印象です。地元に帰ってくると、緑が豊かで空気が澄んでいて、同じ東京なのに、どこか「帰ってきた感」があるところがすごく魅力に感じます。また、幅広い年齢層の方が生活されている印象で、住みやすい街ということが、江戸川区全体の空気から感じます。どこか下町っぽいというか、地域の人が気軽に話しかけてくれることはよくありました。『三丁目の夕日』などは、幅広い世代の人に見ていただいた作品なので、地元のお年寄りからもよく声をかけてもらいましたね。

本日取材場所としても選んでいただいた「葛西臨海公園」。須賀さんにとってどんな場所ですか。

学生時代、自転車で通った思い出の場所

 今はすごく整備されて綺麗になっていますが、当時はまだ何もない場所でした。夕方がすごくいいです。だだっ広い公園で静かに落ち着ける感じが僕は好きでした。母親にお弁当を作ってもらって友達と遊んだり、家族で潮干狩りが毎年恒例の行事になっていたりと、たくさんの思い出ができた場所ですね。あとは、バーベキュー。江戸川区の人は、1度は「臨海公園でのバーベキュー」を経験しているのではないでしょうか。実家から近かったこともあって、自転車でよく行っていました。観覧車ができた時は、学校で招待いただいて乗ったのも思い出ですね。

以前この「TOMONI」でインタビューしたKREVAさんも、江戸川区は自転車が便利とおっしゃっていました。

 KREVAさんは、同じ中学の大先輩です。KREVAさんの楽曲で「江戸川ロックオン」という、まさしく江戸川区の街並みや生活を歌ったものがあるのですが、その歌詞は僕も全部分かる(笑)。僕もですが、確かに葛西の子は自転車で移動するイメージがありますね。

KREVAさんのインタビューはこちら

役者のきっかけは‟ヒーローに会いたいという想い“。

 子役を始めたきっかけは、特撮ヒーローが大好きで、「ヒーローたちに会いたい、助けられたい」と思ったことです。両親に伝えて、新聞に載っていた子役募集に応募しました。両親の薦めとかではなく、完全に自発的でした。でも、テレビに出ることを想定していたわけではなく、ただヒーローに会いたいという純粋な想いでしたね。

仕事が少なかった高校時代が今の俳優業につながる転機

 高校生の時は、子どもも大人の役も難しくて仕事が減った時期でした。子役仲間たちも多く辞めていって、僕も今後の人生について考えたタイミングでした。しかし、今思うとその時間が僕にとっては役者を続けていく上ですごく大切だったなと思います。4歳から数多くの作品に出させていただいた中で、仕事がない時間を経験して、改めて楽しさに気づきましたし、お芝居をすることが大好きだと気付きました。
 最初は仕事の少なさにフラストレーションが溜まることもありました。しかし、他になにができるかを見つめ直して、映像作品への出演が多かったところから、舞台への挑戦にもつながっていきます。転換期であり、今熱量高く俳優をやり続けてられている原動力になっています。芸能界や表現するお仕事は、誰に強制されるわけではないので、やはり「好き」が前提じゃないと続けられないと思います。僕も、好きなものや自分の感性には敏感でありたいと思っています。生活のルーティンの中でそういった些細な自分の心の動きを見つけて大切にすることは、僕がお芝居を続けるために、新しいことにも挑戦するためには必要だったと思います。

映像の世界から、撮り直しのきかない“役を生きる”舞台へ

 ドラマや映画であれば、シーンごとに何カ月もかけて撮影して作品をつくり上げていきます。ストーリーの順番通りに進むことはほとんどないので、自分の中で計算して役を演じていきます。一方で、2時間ほどの中で起承転結すべて、演じている役柄を“生きる”という舞台の場は同じ演じるでも全く異なる世界です。互いでの経験が映像作品にも活きていますし、自分を高めてくれていると思います。
 どうしてもよく見せたい気持ちが前に出てしまう仕事ではありますが、最近は気負わなくなってきました。それも舞台での経験が大きかったです。その人の身体性、その人が持つものがなければ、同じ役を演じても違うものになる。それが個性です。僕にしかできない演技があると思えるようになったことで、肩の力も抜けて、できないことは人の力を借りるということが、いい意味でプライドを持たずにできるようになってきました。

代表作である『ハイキュー‼』はバレーボールがテーマでした。

 以前TOMONIでインタビューされていた大山加奈さんや柳田将洋さんなども江戸川出身なのですよね。何だかうれしいです。僕は演劇もある種スポーツだと思っています。というのも、たとえルールが分からなくても、汗をかいて全力で、その人のすべてをかけている姿に感動するもの。その感動は形容しがたいですし、そういう熱狂できる演技を僕も目指しています。

江戸川区ではともに生きるまちを目指しています。

子どもの僕が当たり前に共生社会を生きていた

 今思うとすごく自然に「多様性」を受け入れて生活していました。葛西駅の周辺もケバブやカレーの店がたくさん並んでいて、よく外国籍の方が駅前でチラシを配っているところを見ましたし、様々な国籍の人が生活しているのが当たり前の雰囲気でした。街にお年寄りも子どももいるということと同じように、“当然の共生”として幼少期の僕が理解できていたのは、江戸川区で生活していたからというのが大きかったと思います。

多様な価値観や文化の違いを理解するために、どのようなことが必要だと思いますか。

 僕はいち早く大人の世界に入らせてもらったこともあり、様々なルールや常識を当時周りの人に怒られながら知っていった部分があります。業界的に独特なルールも多かったのですが、「好き」な気持ちが大きかったからこそルールや業界を知ることへの楽しさがありました。ただ、そこで知ったルールが自分の“縛り”にならないように意識しています。ルールとされている部分だけを見ると反発したくなるところも出てきます。なぜこんなルールができたのか、なぜこんな価値観なのか、本質的な部分を知ることで、お互いに理解できる部分が増えるのではないかと思います。

将来、江戸川区にどんな街になってほしいですか。

 今の江戸川区が好きです。老若男女、国籍問わず生活する環境が昔からありました。当たり前の光景として残り続けてほしいです。また、緑が多いこと。どんどん高いビルが建っていく中で、その環境を守り続けることは、大切だと思います。自分がそうだったからかもしれませんが、子どもには外で遊べる環境が必要だと思います。自然が多いと遊びたくなると思います。そういった意味では、変化し続けながらも、変化しないでほしい部分も、今の江戸川区には沢山あるのかなと思います。

今後須賀さんが挑戦したいことがあれば教えてください。

 江戸川区に関わる仕事をこれからもしていきたいです。自分が生きてきて辿ってきた歴史というのは、長く生きれば生きるほど大事になってくるのかなと思います。僕も30歳という大きな節目の年。自分が育ってきた場所をたくさんの方に知っていただきたいです。最近だと、V6さんが江戸川区のSDGsの一環で植えられていた「ブイロクの木」がある公園は僕が子どもの頃いつも遊んでいた思い出の地です。そこに幼少期から大好きで、共演して今はプライベートでも仲良くさせていただいている森田剛さんが植えていて、めちゃくちゃ自慢できる場所です。このように、僕や、この記事をきっかけに江戸川区って面白そうと思われるように頑張っていきたいと思います。

プロフィール

須賀健太

須賀 健太(すが けんた)

1994年10月19日生まれ。東京都出身。98年、子役としてデビュー。
2002年、ドラマ『人にやさしく』で注目を集め、以降、舞台・映画・ドラマと幅広いジャンルで活躍。07年に第30回日本アカデミー賞(新人俳優賞)、08年に第17回日本映画批評家大賞(審査員特別演技賞)受賞。
近年の主な出演作品に【舞台】『ハイキュー!!』シリーズ、『奇跡の人』、劇団☆新感線『けむりの軍団』、『粛々と運針』、『血の婚礼』『幾つの大罪』劇団『ハイキュー』では演出を務める。
【ドラマ】『君と世界が終わる日にseason4』、『霊媒探偵 城塚翡翠/invert 城塚翡翠 倒叙集』、『先生さよなら』『奪われた僕たち』などに出演。木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』出演中。