TOMONI
GO TO 2100 ともに生きる江戸川区

未来へのヒント

HINT

ともに、生きる。は簡単でない。だからこそ一人ひとりが取り組むべき3つのこと
=後編=
多様性を認める教育で、一人ひとりの特性を活かした社会に

 2017 年に自身に発達障がいがあると告白した、落語家の柳家花緑さん。前半では自身の障がいに関する体験談や障がいとともに生きるために必要なことについてお話しいただきました。それを踏まえて、後半では社会が取り組むべきことやより良い生活を送るためにできることをお聞きしました。

発達障がいの人も生きやすい社会にするため、できることはなんですか。

スーパー寺子屋をたて、障がいを持っている人にも多くの選択肢を与える

 私は最近、講演の依頼をいただくと提案しているのがスーパー寺子屋構想です。学校教育を寺子屋のような方法で行ってほしいと考えています。現在の日本では、同調性を求められ、周りと違う行動をしたり、学校の勉強ができなかったりするだけで「出来の悪い人」と評価します。果たして、本当にみんなと同じことをすることや、決まった答えを導き出すことのみが優秀なのでしょうか。

 先ほども述べた通り、勉強ができない人であっても、天性の才能がほかに必ずあるはずなんです。発達障がいを告白してから、「花緑さんの話は特別だ。我々のような一般人の発達障がいとは訳が違う」というメッセージをもらうことがあります。しかし、みなさんにも天性の才能は必ずあって、それをただ見つけられていないだけなのです。それを見つけるためには、年齢やバックグラウンドが多様な人々と共にそれぞれの興味を探求できる現代版寺子屋制度を取り入れてみてはいかがでしょうか。国語が苦手な子は算数だけ勉強しても良し、算数は苦手だけど絵が得意な子は絵を描いたり、途中で他の勉強もしたくなったらそれも学べたりする「スーパー寺子屋」になることが理想です。一つのことを探求するもよし、複数を転々としてもよし、決まった答えをきちんと出す力を身につけるもよし、多彩な魅力を身につけるのもよろしいのではないでしょうか。そこには1つの正解はなく、多くの選択肢が与えられ、自身の本当にやりたいことや得意なことが見つけられるはずです。

答えがひとつとは限らない

一人ひとりに個性があるように、障がいにも個性がある

 以前、講演をご一緒させていただいた先生が教えてくださったのですが、アメリカでは例えば「犬の絵」を描くときに、見本を見せることはしないそうです。その人が思った姿かたちの「犬」を描く。しかし日本では、柴犬などの絵を見本として先に見せてそれを上手に描こうとしてしまいがちです。それでは才能が発揮しきれない人がいると思います。スーパー寺子屋構想に加え、教育のシステムもより多様な才能や人材に対応できるものになると良いですね。もう一つ発達障がいについて知っていただきたいのは、一般的に高学歴と呼ばれる学校を卒業するような勉強ができる方にも、障がいを持つ方がいます。私は字が読めず、勉強ができない症状が表れましたが、それとは別にコミュニケーション障がいや、音や光に過敏など様々な形で症状が表れることも知っておいていただければと思います。

 発達障がいを持つ人は、不得意なことでつまずく経験が多く、私たちの想像以上に苦しい想いをしている人が多いです。共生社会の第一歩として、まずはその人たちを理解する必要があると思います。そのためには、発達障がいに関する知識を増やすことが大切です。発達障がいには多くの種類があり、それぞれ特徴が違います。それを知らずに接してしまうと、かえって発達障がいを持つ人を傷つけ、苦しめてしまいます。近年、障がい者枠の雇用に積極的に取り組む会社が増えています。とても良い傾向だとは思いますが、そのような会社でも、その人の苦手なことや特徴を知らなければ、一人一人に寄り添うことはできません。発達障がいの種類によって、音や光に敏感な人にはデスク周辺に高いパーテーションを立てる、疲れやすい人には仮眠の時間を確保するなど、その人にとって最適な対応をすることで共生していく一歩につながると思います。

より良い生活のために私たちができることはありますか。

ひとりでもはじめられる”3つのこと”

 私たちがより充実した生活を送るためには、それぞれが抱えている不安や悩みを緩和させる必要があります。生活を豊かにしてくれるのは行政の役割ではないかとどこか他人任せになりがちですが、他人にだけ頼っていてはいつまでも解決はしません。みなさんがするべきことは「掃除」「笑い」「感謝」の3つです。これらは年齢や国籍など関係なく、誰でもいつでも行うことができます。

 まず1つ目の掃除をするべき理由ですが、自身の周囲を綺麗にするということは、自分自身を磨くことになります。神社などパワースポットと呼ばれる場所は常に手入れがされています。綺麗な場所には綺麗な“気”が集まるのです。みなさんも掃除をして心がスッキリしたという経験があるかと思います。2つ目は笑うことです。笑うと深部体温が上がり、自律神経のバランスを整える効果や血行を促進させることで新陳代謝を上げる効果、さらには血糖値の上昇を抑え、免疫力を高める効果があります。また、人は笑っている時に体と心がリラックスするといわれています。笑顔を心がけると、悩みや不安が和らいでいきますよ。そして最後は感謝です。私の場合、発達障がいを持っていますが、健康な体で落語ができる現状をとてもありがたいと感じています。私は多弁で、空気を読まず話し続け白い目で見られたり、辛い思いをしたこともありますが、落語の世界では多弁であることがメリットになることも多く、自身の障がいに感謝しています。当たり前のことに感謝したり、ものの見方を変えたりすると、自己肯定感が上がり、前向きな気持ちになります。せわしない日常を送っているとつい忘れがちな今の環境や自分自身に対する感謝の気持ちを持てると良いですね。

 これら3つのことは、いつでも誰でも行うことができるため、今日から意識して生活してみてください。大きな笑いが必要でしたら、ぜひ寄席にいらしてください。

プロフィール

柳家花緑

柳家花緑(やなぎや かろく)

1971年東京生まれ。
9歳の頃より落語を始め、1987年3月中学卒業後に祖父である五代目柳家小さんに入門。
前座名を九太郎。1989年二ツ目に昇進、小緑と改名。1994年、戦後最年少の22歳で真打昇進、花緑と改名。
スピード感溢れる歯切れの良い語り口が人気で、着物と座布団という古典落語の伝統を守りつつも、“洋服と椅子”という現代スタイルで新作落語や都道府県落語を口演する「同時代落語」、バレエの名作ストーリーを江戸落語に仕立てた「バレエ落語」など、落語の新しいスタイルへの挑戦をしている。
また、2022年からは『花緑のタネ!』と銘打ったネタ下ろしの会を新たにスタートさせ、50歳を越えた今も古典落語にも磨きをかけている。
2017年に発売した『花緑の幸せ入門「笑う門には福来たる」のか?~スピリチュアル風味~』(竹書房)にて、自身が識字障害(ディスレクシア)であることを公表。全国の発達障害をテーマとした講演会へも多数登壇している。