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未来へのヒント

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絵本で子どもたちに「共生社会」のメッセージを届けたい

 江戸川区は2022年8月に、共生社会をテーマとした絵本『ワラビーのレストラン クワガドーエのお客さん』を発行しました。動物たちが森のレストランを舞台に交流していく様子を描いた絵本の作者は、かめおかあきこ先生です。この絵本に込めた想いや制作時のエピソードをかめおか先生にうかがいました。

かめおかあきこ

絵本の物語はどのように作っていったのですか?

区長さんや区の職員さんと相談しながら「ともに生きる」物語を作りました

 絵本が江戸川区内の小学校や図書館でたくさんの子どもたちに読まれていると聞き、とてもうれしく思っています。私がこの絵本を作ることになったのは、区の職員さんが『さいこうのスパイス』という私の童話をたまたま手に取ってくださったことがきっかけだったそうです。童話の物語には、「自分の考えを押し付けるのではなく、相手の気持ちになって関係を築くことが大切」というメッセージを込めていました。その“寄り添う”という考え方に共感し、絵本制作を依頼してくださったのです。

 区の職員さんからは、「江戸川区の『ともに生きるまちを目指す条例』の本質を子どもたちにも伝えたい」という想いをお聞きしました。条例を読んでみて感じたのは、ともに生きるという考え方は、今を生きる大人以上に、これから大人になる子どもたちにとってのキーワードになるのだろうな、ということ。子どもたちの生きやすい世の中を今から作り始めようという江戸川区の考え方に賛同し、絵本制作をお引き受けすることになったんです。

かめおかあきこ

 絵本を作るうえで肝になるのは、いろいろな個性を持った人が、同じまちで生きていくことをどう表現するかです。物語では、種類も形も異なる動物を登場させて多様性を表現しました。そして、物語の舞台はたくさんの人が集まるレストランに。お客さんが来ても、そのお客さんの体の特徴が理由で店に入れなかったり、料理が食べられなかったりと、店主のワラビーが苦戦する様子を描きました。でも、ワラビーがそれぞれの動物の得意分野や役割の違いを理解していくことで、だんだんとレストランがうまく回り始めます。

 この物語は、私のアイデアだけではなく、区長さんや区の職員さんからご意見をいただきながら作っていったんですよ。共生社会を作るためのヒントとなるような絵本になったのではないかな、と思っています。

かめおかあきこ

子どもたちに絵本を楽しんでもらうための工夫を教えてください

読むたびに新しい発見ができるようにいろいろな仕掛けを施しています

 物語が完成したら、どのページにどんな絵を描くかを決めるためにラフスケッチを描いていきます。読み手に印象付けたい場面では動物をドーンと大きくしてみよう、お祝いの雰囲気を出すためにこんな料理を食卓に乗せてみよう、なんてことを考えながら描きます。それぞれのページに描き込む絵が決まったら、スケッチブックに下書きをした後、カーボン用紙を使って本番の紙に転写し、いよいよ着彩です。

 動物たちの暮らすまちには、色鮮やかな緑とたくさんの魚がすむきれいな川を描き込みました。これは、江戸川区の持つ豊かな自然を表現しています。主人公をワラビーにしたのは、江戸川区の代表的な動物がワラビーだったからです。オーストラリアのセントラルコースト市(旧ゴスフォード市)が区の姉妹都市になった際、記念にワラビーを寄贈してもらったのだそうですよ。こんなふうに、絵本のまちと江戸川区に共通点を持たせる工夫をしました。

 子どもたちが絵本を読むたびに何かの発見ができるような仕掛けもあります。よーく見ると、ワラビーがレストランの窓からそっと外をのぞいていたり、まちにあるお店の店名や室内に飾ってある本のタイトルを少しヘンテコにしてみたりもしています。子どもたちが「これは何だろう?」と、何かを発見した時のうれしそうな顔を想像しながら描いていました。

 少し難しかったのはヘラジカの描き方です。「ヘラジカがクーラーボックスを運ぶとしたらどんな体勢になって、角はどんな見え方になるのだろう?」。ヘラジカの写真をたくさん見て研究したのですが、個体によって角の色や形はさまざまです。何度も何度も描き直してやっと絵を完成させました。

 物語を考えるところから絵が完成するまでにかかった時間は半年以上です。長いように感じるかもしれませんが、それでもかなり駆け足で作った方でした。みなさんが普段手にする絵本の中には、数年かけて作られたものもあると思います。絵本はそれぞれの作家さんが試行錯誤しながら、一筆一筆、心を込めて描いているものなのですよ。

かめおかあきこ

共生社会を実現するためにみんなができることは何だと思いますか?

自分と異なる意見にこそ興味を持って、話を聞くことから始めたい

 『ワラビーのレストラン クワガドーエのお客さん』では、見た目や噂のせいで友達のできなかったトラが、目の不自由なおじいさんネコを助けたことをきっかけにまちの動物たちと仲良くなっていきます。では、人間がみんなで生きていくためにどんなことができるのか? 今回、このインタビューを受けるにあたり改めて考えてみました。

 私たちが、普段耳に心地良いと感じるものは、共感のできる自分と同じ意見ではないでしょうか。自分と異なる考えは無意識に排除したり、批判してしまったりすることもあります。でも実は、異なる考えの人にもそれぞれに良いところがあって、その良いところを持ち寄ると大きなことが実現できるかもしれません。

 自分と異なる考えの人がいたら、「仲良くなれない……」とシャッターを下ろすのではなく、「なんでそう思うの?」と質問することから始めてみてはどうでしょうか。相手の話の中に発見があったり、興味が湧いてきたりすることがあるかもしれません。自由に発言できる時代だからこそ、相手の気持ちを想像することも大切です。そんなことを相手との対話の中で柔軟にできるようになると、共生社会に近づいていくのかなと思いました。

 絵本の発行後に江戸川区が主催した朗読会では、子どもに付き添った大人からも物語に共感する声が寄せられたと聞きます。これからも、条例のメッセージが年齢を問わずたくさんの方に伝わり、誰にとっても生きやすい世の中になることを願っています。

かめおかあきこ

プロフィール

かめおかあきこ

かめおかあきこ

山形県生まれ。子どもの頃から絵を描くのが好きで、高校の時から独学でパステルを使い出す。東北生活文化大学・生活美術学科を卒業後、絵本作家を志して東京に上京。デザイン会社や、「ちひろ美術館・東京」で学芸アルバイトとして勤務しながら出版社に作品を持ち込んで、2000年に初めての絵本『ねんにいちどのおきゃくさま』(文溪堂)を出版。その後、数多くの絵本を出版したり、童話の挿絵を描いたりと活躍中。

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