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老若男女から愛されるピコ太郎のプロデューサーとしても知られ、お笑い芸人としてだけでなく、音楽・映像制作でも活躍されている古坂大魔王さん。古坂さんはSDGsの取り組みの大切さを、SNSやメディアなどを通じて若年層に発信しつづけています。今回は、そんな古坂さんが若年層に伝えるうえで意識しているポイントなどをうかがいました。
青森県出身の2人の娘の父です。3人きょうだいの次男として、勉強のできる兄に負けないためにと目立ちたがり屋になり、やがてとんねるずさんのようなスターになりたいと思った少年でした。そんな僕も、芸人の道を歩き始めてもう30年近くになります。今はエイベックスという大きな事務所に所属していますが、以前は数人規模の小さな事務所で、「事務所の力なしに、芸能界で目立つためには、オンリーワンな『異端児』になって目立つしかない」と思い立って「人がやっていないこと」を積極的に取り入れていました。20代中盤頃には「お笑い一本で勝負しよう」ということではなく音楽活動にも全力で取り組むようになっていました。こうした性格は日頃から発揮されていて、「この服が売れている・店員も持っている」といった話を聞くと買う気が失せてしまうんです。でも、この飽き性で異端児な性格が、僕がプロデュースしている「ピコ太郎」の衣装につながったんです。実はあの衣装、ネット通販で“売れていない服”を探して見つけた、5年間で1着も売れていなかった服だったんですよ。
人と違うことをやっていると、白い目で見られてしまうことも少なくありません。ですが僕自身が負けず嫌いな性格だったこともあって、貫き通すことができた結果が今だと思っています。僕は「人生は鍾乳洞みたいなもの」だと思っています。長い年月をかけて水がつたって偶然あの形が作られるように、人生も自分がやってきたことが“結果”を形作るものだと思うんです。しかもその結果を評価するのは他人なんですよ。というのも、“自分”というのは、人から見た“その人”でしかなくて、自らが見ている自分というのは存在しないと思うんです。だからこそ、アウトプットしなければいけないし、言語化することが重要です。しかも人に評価してもらうためにも日頃からの基礎力、礼儀とかマナーも大事です。
そして結果に至るためには、努力や勉強が必要だと思います。芸人でいえば、いかに「客前」で成果をあげるか。それにはインプットが必要です。人に評価されるアウトプットにたどり着くためにはそれ以上のインプットがなければ無理。オーディションや舞台に上がって客前で披露して、ウケがよければそれを武器にする。イマイチだったものは微調整を加えて、アウトプットと微調整を繰り返しながら「どうすればウケるか」を模索していく。そうして何年も考え抜いたいくつかのワードを武器にしていくうちにたどり着いたのが、今の「古坂大魔王」のスタイルなのだと思っています。
僕は現在、ありがたいことにSDGsやサステナビリティ関連の仕事に数多く関わっています。しかしそんな僕も、当然ながらSDGsを知っていたわけではありません。SDGsという単語を初めて聞いたのは、プロデュースするピコ太郎が「SDGs推進大使」に任命されたときのこと。正直なところ、最初は「偉い人たちが勝手に大きな目標を掲げているんだな」くらいに思っていました。だって、ターゲットが169個もあるし、「全ての人にとって良いこと」と言っている。「ああ、ただの理想論だ」と感じていました。
そのため僕は、ピコ太郎が国連本部に招かれた際にギクシャクすることも恐れず国連の人たちに向けて「SDGsは理想論だと思うんですよ」と本音をぶつけてみたのです。すると国連の方々は意外にも「まさにそうだと思います」とあっさりと肯定したのです。一瞬拍子抜けしたのですが、その後に「でも、『国連が理想論を唱える』ことが大切なのです」とその真意を語ってくれて、ようやく僕自身もSDGsについて「なるほど」と納得することができました。芸人だって、最初から「理想は月30万円稼ぐこと」なんて言っていたら永久に芸人一本で食べていけるレベルになりません。「全番組のMCに抜擢されて、何十社ものテレビCMに出演して、年に億稼ぐぞ!」というくらいの理想を掲げてそこに向かっていくからこそ、番組レギュラーを複数いただけて売れっ子の芸人になれるもの。それと同じで、一歩目は大きな理想を掲げることが大切なのだと思うようになりました。
国連がSDGsで掲げる17の目標や169のターゲットは、先ほども言ったように大きな理想です。その目標全部が、世界中の全員にマッチするものではありません。だから僕は、「最初は自分が得することから取り組んでみるくらいでいい」と考えています。まずはSDGsの紹介ページにあるわかりやすい目標をサラッと見てみて、興味を持てるジャンルを探してみるところからスタートすればいいと思います。
例えば、僕は家に再生可能エネルギーのひとつ・太陽光発電システムを設置しています。導入のための初期費用はある程度かかるのですが、1ヶ月で15~20%の電気代の節約につながっています。また、蓄電池も備えているので、地震や台風で停電が起こっても1日半は電力が止まりません。これだけでも「太陽光発電ってけっこう得だな」と実感しています。
SDGsは昔の日本で言うところの「徳」や「善」といった言葉と同じもので、翻訳されて世界共通語の「SDGs」という呼び方を持ったぐらいに感じています。そう考える中で、僕自身がとくに大切だと思っているのは「教育」と「パートナーシップ」です。教育・パートナーシップの2つがあれば、世界中から戦争が無くなったり、貧困問題を解決したりすることもできるはず。さらには、知識を積み重ねていけばジェンダーの問題もうまく解決に導くことができるのではと感じています。世界が平和だとみんなが「得」ですからね。
江戸川区は「ともに生きるまちを目指す条例」で、「小学5年生にもわかりやすく」を意識して条例を策定したと伺っています。区の人にお願いなのは、スピード感を持ってやって欲しいということです。いろんな人との調整がある大きな機関は話し合っている間に時間が経ってしまう。「今日やろうと思ったら、今日やりはじめる」ぐらいのことでないとあっという間に社会が次に行ってしまう。江戸川区が異端児と評価されるぐらいにやり切ってみてほしいですね。
そして、区民の皆さんには許容の心をもつことからはじめてほしいなと思います。僕も仕事でSDGsの取り組みの大切さを子どもたちに知ってもらうために、「まずは『まぁいいや』と思ってやってみるといいよ」と伝えるようにしています。意味としては「失敗を恐れてはダメだ」とも言えるのですが、やわらかい言葉のほうが前向きで自発的なニュアンスまで込められていると感じています。大切なのは一歩前に進むこと。その場に留まって「まぁいいかな」ではなく、前向きに「一歩進んで、まぁいいか」が世の中に浸透してほしいと思います。
それに許容の心があれば人に優しくすることもできるはず。世界中の人全員に優しくしろとは言いませんが、隣の家の人であれば、明日から優しく接することもできるのではないでしょうか。多少の不満があったとしても、10個の不満に対して20個の良い部分があれば「まぁいいか」と許しあうことができる。そのためにも、隣人同士でお互いを知って、「まぁいいか」と隣人を愛す。そうした意識を若い人たちが持つことができれば、SDGsが目指す2030年、ともに生きるまちを目指す条例が目指す2100年にはもっと良い社会が広がっているのではないかと思います。
1992年お笑い芸人「 底ぬけAIR-LINE」 でデビュー。ピコ太郎プロデューサー。
文部科学省・CCC大使、総務省・異能vation推進大使、UNEP・サステナビリティアクションアンバサダー。
現在は、バラエティ番組をはじめ、コメンテーターとして情報番組への出演、世界のトップランナーと音楽、エンターテインメント等についてトークセッションを行うなど、幅広い分野で活躍中。
そして芸歴30周年に入り、今までを振り返り「お笑い芸人」を目指す夢を与えてくれた人物、お笑いの世界に入って一緒に走ってきた仲間、どんなときも信じて背中を押してくれた恩人など30年分の感謝を込めて、今だから話せるスペシャル対談をYouTubeにアップ中!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLunoqh4wLJslDvLsZcV0KeecR-xbzwHIH