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江戸川区で「誰一人取り残さない」の実現を目指す多国籍企業「デジタリーフ」

2021.03.30

 江戸川区は「誰もが安心して自分らしく暮らせる共生社会の実現」を目指しています。  今回は、四肢の不自由な障がい者のためのコミュニケーション用システム「リカナス」を生み出した、江戸川区西葛西に本社を置く株式会社デジタリーフの代表取締役社長、寺島健一氏に、「共生社会」実現していくための具体的な取り組み事例について話を聞きました。

株式会社デジタリーフ 代表取締役社長 寺島健一 氏

株式会社デジタリーフ 代表取締役社長 寺島健一 氏

江戸川区に本社を置く、デジタリーフとは?

 デジタリーフは、「業務システム開発」「画像解析技術」「ITコンサルティング」という3つの事業ラインを軸とした企業です。私がITと出会ったのは愛知県の大学を卒業後に入社した日本電信電話、現在のNTT、に在籍していたときのことです。NTTで様々な経験を積んだ後、アメリカのシリコンバレーにほど近いバークレーという街にあるITベンチャーを経て独立し、現在のデジタリーフを立ち上げました。
 弊社は江戸川区に拠点を構えて20年ほどになるのですが、江戸川区を選んだ理由のひとつは潜在需要があったからです。ITベンチャーといえば港区や渋谷区に多かったのですが、私はむしろ「ライバルが少なく、今後需要が伸びてくるだろう」と感じ、知人の紹介もあって江戸川区へとやってきました。そしてそのとき、江戸川区には「他人を受け入れる文化」があると強く感じたことがすごく印象的です。江戸川区は戦後に多くの人が流入してきたこともあり、新たに入ってくる人に対して寛容で、つながりを持とうとする文化が根付いているのではないかと思っています。
 現在は20名の社員がいて、そのうちの半分ほどが外国籍。中国・台湾・ベトナム・マレーシア・バングラデシュ・ネパールと、国籍もバラエティに富んでいます。短いながら私自身もアメリカにいたこともあってわかるのですが、「国をまたいで働く」ということは、それだけで高い障壁です。だからこそ、日本で働こうという外国人たちはタフさやハングリーさを持っていたり、モチベーションが高かったりします。そんな外国人社員の良い部分を日本人社員にも吸収しお互いに高めあう、ということも外国人社員が多く在籍している狙いのひとつです。また、日本人は日本にいると外国人と接する機会がほとんどありませんから、「複雑な日本語が通じない」などのコミュニケーションを通じて、配慮することの大切さを学ぶ「外国人慣れ」してもらえるといいなとも思っています。

コミュニケーションといえば、御社の「リカナス」も障害を持つ人がコミュニケーションを取るためのツールですね

 はい、私たちの持つ画像解析技術を利用した製品です。リカナスは筋ジストロフィーやALSといった四肢が動かない障害を持つ方が、「目線」を使ってタブレット端末等に文字を入力できるシステムです。
 私の身内にも脳障害を持つ人がいて知っていたのですが、医療機器は病院に導入されるような大型の装置は最先端技術が活用されているものの、いち患者さんが利用する身近な医療機器の分野はあまり開発が進んでいない。そういった背景もあり、画像解析技術を活用して「その人がどの文字を見ているか」を測定し入力できるシステムを開発しました。こうした製品の需要はとてもニッチで利益も大きくあがらない。そのため大手企業では手が出しづらい分野です。ですが障害を持つ方々のニーズとしては確実に存在し、とても切実なもの。そのため私たちが参入しよう、と決めたのでした。
 できあがったシステムは、これまで思うようにコミュニケーションを取れていなかった方々でも簡単なコミュニケーションができるようなる、と多くに満足いただいています。また、「Yes」「No」で簡単に返答できたり、文字を理解しづらい人にも画像で直感的に選べたりする機能も搭載しています。

視線の動きだけで文字をタイプできる「リカナス」

視線の動きだけで文字をタイプできる「リカナス」

外国人社員を入れたり障害者に向けたシステムを開発したりと、「共生社会」の実現に寄与されている寺島社長がこれからの江戸川区に期待することを教えてください

 ソフト・ハードともに産業の振興にもっと力を入れてもらえると嬉しいです。現在日本中で進んでいるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、江戸川区が取り組んでいるSDGsの推進にも様々な面で良い影響を与えるものです。私たちデジタリーフが2020年に「江戸川区産業賞」をいただけたのも、ソフト面の発展に期待を寄せていただいているものだと認識しています。
 そうした新たな技術を生み出そうとしている開発者が起業しやすいような、インキュベーションやオープンイノベーションを区がサポートすると、江戸川区の産業がさらに活気づくのではないでしょうか。とくに江戸川区内には広くは知られていないながらも、上場企業にも劣らない業績の企業が多く存在します。そうした実力のある企業と、新たな技術を世に送り出そうとしている新興の企業をマッチングさせる場を設けたりするのも面白いのではないかと思います。

デジタリーフは、2020年(令和2年)度、江戸川区産業賞を受賞。

デジタリーフは、2020年(令和2年)度、江戸川区産業賞を受賞。

今回の話を聞いた方
(※記事中の役職名は取材当時のもの)

株式会社デジタリーフ 代表取締役社長 寺島健一 氏

株式会社デジタリーフ
代表取締役社長 寺島健一 氏

1994年、名古屋大学 法学部卒業。 日本電信電話株式会社(現NTT東日本)入社。三河支店勤務を経て、 本社マルチメディアビジネス開発部。
1999年、米国カリフォルニア州ITベンチャー、KamiyaConsulting,Incにて Vice President 兼 COO 就任。
2001年、帰国後、個人事業主としてデジタリーフ創業。デジタリーフを、2002年11月に有限会社化、2004年に株式会社化し、代表取締役として現在に至る。