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未来へのヒント

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「発信型三方良し」で「共生社会」の実現へ

2021.03.30

 国連が掲げる持続可能な開発目標「SDGs」の達成を目指す江戸川区。自治体が本気で達成をするにはどのように進めていくべきか。農林水産省、伊藤園、そして現在は大学と、産官学それぞれに属していた経験を活かし、実践的な「発信型三方良し」というSDGsの取組み 手法を伝えている千葉商科大学の笹谷秀光氏に聞きました。

SDGsと「発信型三方良し」の関係とは

 私はSDGsを「誰一人取り残さない未来を創るための羅針盤」のようなものだと考えています。つまり座学で勉強するものではなく、私たち一人ひとりが「自分ごと化」して、より良い未来を創るために主体的に使っていくためのものなのです。
 私は、31年間農林水産省をはじめとした行政に携わり、その後、伊藤園で10年間ビジネスの世界にも身を置きました。現在は江戸川区と川を挟んでお隣にある千葉商科大学で教壇に立ち、未来を担う学生たちにSDGsに関する様々な事柄を伝えています。

 私はビジネスの世界にいたタイミングで、今のSDGsにつながる「CSR」を実践し「CSV」という考え方の誕生に立ち合いました。特にCSVは、「企業が本業で社会課題を解決することで、社会に貢献し企業利益もあげる」というもの。これは日本に古くからある「自分良し、相手良し、世間良し」の「三方良し」の考え方に近いものです。しかし、私は、現代のグローバル社会の状況を加味すると、「自分のよい行いを、広く社会に伝えていくことも重要だ」という考え方を加え「発信型三方良し」にアップデートしていくべきだと考えています。

SDGsは壮大な物語

 SDGsとは、CSR・CSVの影響も受けるかたちで、2015年9月にまとめられた「世界共通の持続可能な社会づくり」の手法です。2030年という未来に向けて持続可能な社会が実現するための羅針盤となる、17の目標と169の具体的なターゲットが設定され、網羅的・一覧的に世界の課題を整理してあります。
 日本政府も2016年に「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を立ち上げています。最新の「SDGsアクションプラン2021」では、新型コロナへの対応に加え、Society 5.0による「未来社会の実現」、そして「活力のある地方」、さらには「次世代育成と女性活躍推進」の3つの柱を示しています。2つ目の「活力のある地方」は、“地方”という単語からどうしても「東京vs地方」のように捉えられてしまいがちですが、ここで言う“地方”は「ローカル」という意味。江戸川区も一“地方”なのです。「地域で考え、街づくりに努めましょう」という動きにSDGsが重要だと言っているのです。

SDGsの各ゴールは、江戸川区のまちづくりにも

 実はSDGsは、とても街づくりに活用しやすいものです。具体的には目標11 「住み続けられるまちづくりを」が、自治体にとってメインの目標になるかと思います。
 17の目標のうち1~6には「貧困」「飢餓」「健康」「教育」「ジェンダー平等」と人に関わるものが並んでいます。6番の「安全な水とトイレを世界中に」も、インフラ整備という意味だけでなく人々の健康にも直結する目標です。11番を中心にして、それを実現する過程で人に関わる目標の実現も目指せるものと考えています。

 そして人に関わる目標に加えて、経済繁栄の目標があります。7・8番ではエネルギーや経済成長関連の内容をまとめています。目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」では、民間企業のイノベーション力も重要になります。ものづくり企業の多い江戸川区にとっては得意分野と言えるでしょう。さらに10番でも、ハンディキャップのある方にとっても住みやすく、活躍の場がある街を目指しています。

 次に出てくるのが地球環境の目標です。目標12「つくる責任 つかう責任」はリサイクル社会のことであり、日本政府も「2050年のカーボンゼロ社会実現を目指す」と宣言しています。地方自治体もこの目標達成のための取組みをけん引していく必要が出てくるでしょう。また13番で気候変動対策にしっかり取り組んでいくことで、14・15番に関連し海もあり緑豊かな葛西海浜公園もある江戸川区の自然を守ることにもつながります。

 そうした取組みを、16番で公正性をもって行う。そしてこれら16項目の目標は自治体が単独で達成するのは非常に難しい課題ばかりですので、17番で区民のみなさんも含め、様々な人や企業・団体との連携の大切さを説いています。このように、全体が壮大なストーリーでできているのがSDGsなのです。
 そのため、今まさに問われているポスト・コロナに向けた「グレート・リセット(大変革)」や「グリーン・リカバリー」のための羅針盤としてもSDGsは必須です。

SDGsに本気で取り組む江戸川区の魅力が、人を引き寄せる力になる

 まずは、SDGsのターゲットを江戸川区に当てはめて、さらにその特色に合わせたものに改造するというローカライズが大切です。すでに江戸川区では、えどがわ未来カンファレンスをはじめ、たくさんのSDGs江戸川区版の製作にも取り組まれています。

 ひとつの参考としては、政府が決めている「SDGs未来都市」の制度がヒントとなることでしょう。選定されている都市のモデル事例から学ぶこともあると思います。SDGsというのは「磁石のようなもの」で、SDGsという“磁場”を持つ人には、同じく“磁場”を持つ同じ興味のある人材が集ってきます。近年では小学校の学習指導要領にSDGsが加わるなどSDGs教育が盛んです。私自身も大学でSDGsを学生に教えており、今後社会にしっかりと学んだ若い人材が多く輩出されていくことを、身をもって感じています。そうした優秀な人材が江戸川区に引き寄せられるように、自分ごと化しやすく魅力的な計画を策定し、それを発信していくことが重要なのです。

 合わせてSDGs計画の中で推進力を得るために重要なのは、「民間事業者をどのように巻き込むか」。これは民間事業者が自治体のSDGsに加わることで、イノベーション力が格段に向上するからです。私も民間にいた経験があるので、「本業が多忙で他のことをしている暇がない」という企業が多いのもわかります。しかし日本人は「三方良し」の考え方を持っており、社会貢献に前向きな企業も少なくありません。そうした企業が参画しやすいプラットフォームを、メンバー同士で知恵を出し合ってつくっていくことも大切です。

 江戸川区では「東京パラリンピック22競技“できる”宣言!」をしたと伺いました。全国的にも珍しい先進的な事例を実現できたのは、それだけ昔から江戸川区が人を大切にする社会をつくり、誰一人取り残さない「共生社会」を描いていたからだと思います。ですので、そこで「もう出来上がっているからこれ以上は不要」と考えず、発信型三方良しの考え方でSDGsを活用し世界に伝わる発信を行うステップへと進んでいただきたいですね。

今回の話を聞いた方
(※記事中の役職名は取材当時のもの)

笹谷秀光 氏

笹谷秀光 氏

東京大学法学部卒、1977年農林省入省。2005年環境省大臣官房審議官、2006年農林水産省大臣官房審議官、2007年関東森林管理局長を経て、2008年退官。同年伊藤園入社、取締役、常務執行役員を経て2019年4月退社。2020年4月、千葉商科大学・基盤教育機構・教授に就任。博士(政策研究)。日本経営倫理学会理事、グローバルビジネス学会理事、サステナビリティ日本フォーラム理事などを兼任。
主なSDGs関連著書に、「3ステップで学ぶ自治体SDGs」(ぎょうせい・2020年)、「SDGs見るだけノート」(監修・宝島社・2020年)、「Q&A SDGs経営」(日本経済新聞出版・2019年)、『経営に生かすSDGs講座─持続可能な経営のために─』(環境新聞ブックレットシリーズ14)新書(環境新聞社・2018年)、共著「SDGsの基礎」(学校法人先端教育機構 事業構想大学院大学 出版部編集・2018年)など。
最新書籍では、「3ステップで学ぶ自治体SDGs」全3巻セット(ぎょうせい・2020年)を発刊。地域ならではの取り組みを推進したい自治体職員、自治体と連携して地方創生SDGsビジネスへの事業展開を検討する民間企業・金融機関に、「基本」「実践」「事例」の3つのステップでSDGsをわかりやすく解説した
笹谷秀光公式サイトー発信型三方良しー https://csrsdg.com/