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知花くららさんが語る、江戸川区の「誰一人取り残さない街づくり」と「共生社会の実現」

2021.03.30

 モデルとして活躍するだけでなく、国連WFP(国連世界食糧計画)の日本親善大使や「国際女性デー|HAPPY WOMAN AWARD for SDGs」にも選出されるなど、精力的に国内外の活動に取り組まれている知花くららさん。実際に貧困の現場にも足を運び、そこで見た現実と、江戸川区が「共生社会」実現に向けてどのような取り組みをしていくべきか話を聞きました。

(衣装協力:オンワード樫山「JOSEPH STUDIO」)

(衣装協力:オンワード樫山「JOSEPH STUDIO」)

知花さんはWFPではどのような活動されているのですか?

日本での“当たり前”が当たり前じゃないことを伝えることが私の役割

 私が2007年から活動に携わり、現在の日本親善大使を務めている国連WFPは、簡単に言えば「世界中の食料が足りていない地域に食糧を支援する組織」です。私も組織の活動の一環として、貧困に陥っていたり、紛争があったり、大きな自然災害の被害を受けて食糧難になっている国を訪れ、現地視察を行ったりしています。やはりそうした現場では、日本にいるだけでは想像もできない環境で暮らす人たちの姿をたくさん見ることになります。

 私が訪れたアフリカ東部にあるウガンダでも、首都は栄えているものの自動車で少し郊外に出るだけですぐに街の光景が一変し、水道も下水も無い環境で貧しい暮らしを送る人たちがたくさんいました。女性に抱えられながら、脱水症状でぐったりとして命の危機に陥っている赤ん坊を見かけたときの衝撃は今でも忘れられません。日本では「脱水症状で赤ん坊が亡くなる」ことはほとんど起こらない話ですが、日本での“当たり前”が当たり前じゃないことに気づかされることばかりです。

 そうした知る機会が無いけれど知らなければいけない光景を、日本にいる人たちに伝えるのも私の役目のひとつだと感じています。そのため私は講演会やトークショーを通じて、日本の子どもたちに「日本ではなかなか実感しづらいけれど、世界中におなかをすかせている子どもがたくさんいる」ことを具体的なエピソードを交えながら伝えています。現地の子どもの写真を見せながら、「この子は、この日の朝ごはんは何を食べた」「普段は家でどんなことをしている」等を話すことで、自分と同じくらいの年齢の子どもが置かれている状況を知る。「日本の環境が世界の当たり前ではない」と、身近な自分ごととして知ってもらうように努力しています。

知花さんがご自身の想いを伝えていくために、
どのようなことを意識していますか?

「相手の立場に立って考える」ことが、「共生社会」実現への一歩目

 これは伝える相手の年齢に限らず共通した話なのですが、話で聞いただけではどこか遠い話のように受け止めてしまう人が多数派でした。しかし、2011年に東日本大震災が起こった頃から、真剣に耳を傾けてくれる人が増えたように感じています。身近にあったものが無くなり、命の危険が迫る経験をされた方も多くいらっしゃると思います。そうした人や、その経験を生の声として聞いた人たちが、当たり前だったものが当たり前じゃないことに気づくきっかけになったのかもしれません。
 災害という点では、日本はどこに住んでいても地震や台風のリスクはありますし、“海抜ゼロメートル地帯”のある江戸川区でも他人事ではないと思います。そうしたリスクと向き合うとき、ネガティブな意識を持つのではなく、リスクを認識してそれを受容する。リスクに対する備えをする意識も大切だと思います。

 また、自分の知っていることだけが“当たり前”でないと気づくことは、お互いを認め合い尊重しあえる、SDGsの理念でもある「誰一人取り残さない『共生社会』」への一歩目でもあります。自分の物差しで物事の良し悪しを測るのではなく、相手のバックボーンにも目を向けることが大切。私自身も様々な国を訪れて、その地域独自の習慣をたくさん目にしてきました。中には「私には理解できないな…」と思ってしまうようなこともありました。ですがそれを頭ごなしに否定するのは間違っていると信じているので、いつも知らない地域に行くときはまず「そこの暮らしを丸ごと受け入れる」ところから入り、「彼ら、彼女らにとって何が幸せなのか」「いま必要なものは何なのか」を考えるように意識しています。

 「相手を自分の物差しで測らない」ことができるようになれば、「相手の立場に立って考える」こともできるはず。私自身がその大切さに気付いたのは、かつてアフリカ南部のザンビアを訪れたときに出会ったおばあさんとの会話がきっかけでした。洪水の被害を受けて家も畑も流されてしまったおばあさんは、自分の暮らしも大変なのにも関わらず、去り際の私たちに「何もしてあげられないけど、旅の安全や幸せを祈ります」とお祈りをしてくれました。「本当の豊かさって何だろう」とすごく考えさせられるとともに、相手の立場に立って幸せを願えるおばあさんの気持ちから新しいことに気づかせてもらうことができました。

江戸川区で他人を思いあえる共生社会を実現するにはどのようなことが必要でしょうか?

現在もこの先もずっと、「誰もが安心して自分らしく暮らせるまち」を目指して

 先日江戸川区のことを調べていたら、江戸川区には外国の方が多く住まわれていて、インドの方に限れば日本の自治体の中で最も多いことを知りました。インド系のインターナショナルスクールも子どもが多く通っているそうで、とても良い環境だとびっくりしています。外国でも言葉が違う子どもたちは周囲と交流が持てずに孤立してしまいがちなので、こうした誰一人取り残さない街づくりは共生社会実現に向けての大切なことだと思います。
 また母親としての視点では、子育てや家庭のことなど何かで困ったら何でも相談できる「なごみの家」という施設があると聞いています。貧困や家庭内暴力、育児ノイローゼ、産後うつといった周囲に打ち明けづらいことを抱えている方々を、地域が「あの人、何かに困っているのでは?」と見つけてあげられることがとても助けになるのではと期待しています。

 また、江戸川区ではSDGsのさらに先となる2100年に向けた街づくりに取り組んでいるとのことで、「長期的な視点」というのは国連WFPで行っている途上国の学校給食のプログラムと似ているなと感じました。学校給食のプログラムも、成果となって表れるのはその子どもたちが大人になって社会に出るようになってから。私はこれを“種まき”のようだと感じているので、江戸川区で取り組む方々も2100年に実るための種をたくさん蒔いていく意識で取り組んでいっていただきたいなと思います。

今回の話を聞いた方
(※記事中の役職名は取材当時のもの)

知花くらら 氏

知花くらら 氏

1982年沖縄県出身。モデル。国連世界食糧計画(WFP)日本大使。
上智大を卒業した2006年、ミスユニバース世界大会2位。
07年、国連世界食糧計画(WFP)のオフィシャルサポーターに就任し、13年より現職。
15年NHK大河にて女優デビュー。
著書に短歌集「はじまりは、恋」(角川書店)など、執筆活動にも従事する。