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セクシャリティについて悩んでいる人に、「一人じゃないよ」と伝えたい

 LGBTQ人権活動家、僧侶、メイクアップアーティストという3つの肩書きを持つ西村宏堂さん。「誰もが平等に、自由に生きていい」というメッセージを伝えるため、国内外で講演を行っています。今回は LGBTQ人権活動家、また当事者として感じた社会の変化や、海外での生活で気づいた日本の良さなどをお話しいただきました。

西村さんのご経歴を教えてください。

 東京のお寺で生まれ育ち、風呂敷を頭に巻いてする「お姫様ごっこ」や絵を描くことが好きな男の子でした。幼い頃から自身のセクシャリティに気づいていましたが、周りの目を気にして、20歳前半まで誰にも相談できずに苦しい思いをしていました。またテレビで流れるCMや雑誌で見る「男性らしさ」や「女性らしさ」という言葉に違和感を抱いていたこともあります。高校卒業後は、自分をさらけ出せる環境に移りたいと思い、アメリカ・ニューヨークのパーソンズ美術大学に入学。そこで自分が感じたものを表現することに魅力を感じ、自分の好きなメイクやファッションで感性を表現したいと思いメイクアップアーティストの道に進みました。現在は、LGBTQ人権活動家として国内や海外でも講演を行っています。2023年からコロンビア人の同性パートナーと日本で一緒に暮らしています。

ミス・ユニバース世界大会での様子。
トランスジェンダー女性のスペイン代表と。

世界的に多様化を認める風潮が出てきていますが、その現状についてどのようにお考えですか。

 とても良い流れだと思います。LGBTQとはレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クエスチョニングの頭文字をとった性的マイノリティを表す言葉ですが、私が一番悩んでいた時期は、セクシャリティが男性と女性の2つに分けられがちでした。その時と比べると現在はセクシャリティについて多くの人が関心をもち、アメリカではLGBTQ社会運動も積極的に行われています。私が、今こうしてLGBTQ当事者としてお話しできているのも多様化社会が進んだ証になっているのではないでしょうか。これからLGBTQに関する社会運動やイベントの活動が広がり、セクシャリティについて悩んでいる人が、より生きやすい社会になることを願っています。

高校卒業後、アメリカに留学中の西村さん。

周りの人にLGBTQについて相談されたとき、どのようなサポートを行うべきだと思いますか。

ともに乗り越えていきたいという姿勢だけでも救われる人は多いと思います

 まずはその人について知ろうと努力することです。住んでいる地域やその人の性格、関わる人によって悩みの種類や深刻さは異なります。非常に難しいことですが、それらを知った上でともに歩んでいくことが一番良いサポートではないでしょうか。すべてを知ることができなくても、相談された悩みについて興味をもって話を聞いたり、一緒に乗り越えようという姿勢になったりするだけでも救われる人は多いと思いますよ。

LGBTQについて悩んでいる人へアドバイスをお願いします。

  自身のセクシャリティについて悩んでいても、周りに相談することができずに溜め込んでいる人が多くいると思います。誰にも相談できずに一人で考えていると、「自分のような悩みを持つ人は他にいないんじゃないか」と不安になりますよね。今は、YouTubeなどでLGBTQの人のインタビューや悩みを語る動画が多く発信されています。そのような動画を見ると、「セクシャリティのことで悩んでいるのは自分だけではない」と実感できるはずです。ぜひ、LGBTQに関する動画を見て一人ではないと気づいてほしいです。
 また、自身のセクシャリティを1つに決めなくてはいけない風潮があるように感じますが、好きになる相手は趣味と同様、その時に「好きだ」と思った人で良いんです。「セクシャリティを決めなきゃいけない」と思う必要はありません。カテゴリー分けは自由な選択肢を制限してしまいます。

ハーバード大学での講演の様子。

セクシャリティに関して海外に住んで気づいた日本の良さを教えてください。

 日本は同性婚が認められていない現状から、「考え方が遅れている」と感じる人が多いと思います。しかし、多様化社会になってきた現在でも60ヶ国以上の国で同性愛が犯罪になり、死刑になってしまう国もあるそうです。このようなことを知ると日本の考え方は決して遅れているとは言えません。また、同性婚が認められているニューヨークに住んでいた時でさえ、同性愛者であるという理由だけで道を歩いている時知らない人に石を投げられたり、罵声を浴びせられたりすることがありました。このようなことは日本では滅多に起きません。セクシャリティに関して身の危険を感じない点が日本の良さだと感じています。

コロンビア人の同性パートナーと暮らされていますが、外国出身の方と共生するためにはどのような取り組みが必要だと思いますか。

 私のパートナーを通して、外国人の目に映る日本の姿も見えてきました。例えば、レストランで日本語が分からない外国人に対して、店員さんが日本語で一方的に話していることがあります。それを見ると、「スマホの翻訳機を使うなど、解決するのは難しくないはずなのに、言語が分からないからといってあきらめてしまっているのではないか」と思います。言語の壁があっても、お互いが相手を配慮することでコミュニケーションをとることができるのではないでしょうか。
 外国人イコール英語ではなく、まず日本語か英語のどちらが良いか聞くことが大切かなと思います。

西村さんにとって自分らしく生きるとはどのようなことですか。

 周囲の人に迷惑をかけずに、自分自身が納得のいく生き方をすることですね。日本人は幼い頃から「みんなと同じが正しい」と教育を受けている人が多いです。その枠を超えて自分らしさを貫くことは案外難しく、周りの目や社会の常識などに捉われてなかなか行動に移せず苦しんでいる人が多いはずです。今は、多様化など自分らしく生きることを受け入れる波がきていると思うので、勇気を出して自分らしさを貫けるときっと生きやすくなると思います。昔ながらの秩序と自分らしさのバランスをどのように取れるのかが力の見せ所です。そのためのヒントを私は伝えていきたいと思っています。

プロフィール

西村宏堂

西村 宏堂(にしむら こうどう)

1989年東京生まれ。ニューヨークのパーソンズ美術大学を卒業後、アメリカを拠点にメイクアップアーティストとして活動。2015年、浄土宗の僧侶となる。LGBTQ活動家として「性別も人種も関係なく皆平等」というメッセージを発信し、ニューヨーク国連人口基金本部、ハーバード大学などで講演を行う。2021年にはTIME誌「次世代リーダー」に選出され、2022年にはNHK紅白歌合戦で審査員を務めた。著書「正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ」は7カ国語に翻訳されている。