HINT
日本人の母とアフリカ系アメリカ人の父との間に生まれた副島淳さん。日本で生まれ育ったものの、ミックスルーツによる見た目のちがいから小学生時代はいじめを受けたと言います。多様な人がともに生きる今、“ちがい”を受け入れて心地よく過ごすにはどうすればよいのか。副島さんにお話を伺いました。
ぼくは小学4年の時に転校した学校で、周囲の生徒からいじめを受けていました。肌の色や髪質、ぼくの家の貧しさをネタにされながら、上履きや教科書を隠されたり、ばい菌扱いをされたり……。肉体的な暴力を受けたこともあります。いじめは小学6年まで繰り返され、あまりに辛く、自殺を考えたこともあったほどでした。
そんななか、周囲の生徒との関係が好転したのは、中学校の部活動でバスケットボールを始めたことがきっかけでした。弱小だったぼくたちのバスケチームは、顧問の先生による熱血指導でめきめきと強くなり、他校との試合で好成績を残すようになりました。なかでもぼくは、ずば抜けて高い身長を生かして次々と点を取り、チームで頼りにされ、学校でも注目される存在になっていきました。
しかし、周りに認められて喜びを知る一方で、ぼくは“勝ち”にこだわり始めました。思い通りにいかないとチームメンバーに辛く当たるようになっていったんです。
「お前、なんでこんなこともできないんだよ!」「嫌だったらやめちまえ!」
そんなことを日常的に言うようになってしまいました……。そしてある日、バスケ部顧問の先生に呼び出されました。
「副島、お前は小学生の頃、周囲の言葉に傷ついて嫌な思いをしたんじゃなかったか? お前が一番、言葉の重みを知っているはずだろう? まずは、相手のことをよく知りなさい。知ったうえで、自分の想いを伝えなさい」
ぼくはそう言われてハッとしました。当時のぼくは、小学校時代にいじめをしてきた子には気を遣いながら過ごしていたのに、バスケ部内では立場が強くなって相手の気持ちも考えずに厳しい言葉を投げかけていました。上には弱くて下には強い人間になっていたんです。
人は、立場が変わると“いじめられる側”から“いじめる側”へと変わり得る――。申し訳ないことをしてしまったと思いました。その出来事をきっかけに、ぼく自身が周囲とのコミュニケーションを見直していくこととなったんです。
子どもの頃って、学校が一つの“地球”で、そこから外れてしまうとまるで“宇宙人”。宇宙人は誰からも理解されないと思い込み、殻に閉じこもって自ら行動することが難しくなってしまうものなのです。ぼくも、「誰にも助けてもらえない、一人ぼっちなんだ……」と思い込んでいました。
でも時々、学校の外の人とのつながりを感じられた時は、心がふわっと軽くなったのをよく覚えています。学校以外の人と話して落ち着くと、周囲を見渡すことができ、自分が限られた狭い世界で苦しんでいることに気が付けたりするんです。
今はインターネットを利用した嫌がらせが増え、いじめが見えにくくなったといわれています。明るくふるまっている子も、実は何か問題を抱えながら過ごしているかもしれない。いじめを見かけたら止めに入るのはもちろんですが、元気そうに見える近所の子にも、ちょっと声をかけて何気なくつながっていることが、その子にとって救いになっているかもしれません。
いじめを受けている子には、インターネットの利便性を逆手に取って動いてもらいたい。専門機関や相談窓口に「助けて」という声を発信して、外の世界とつながっていってほしいと思います。
今後は海外からの観光客が戻り、長期滞在の外国人も増え、多様な人との交流の機会が増えていくことになるのでしょうね。……実はぼくが二十代の時、外国人に道を尋ねられたのに、答えられずにその場を立ち去ってしまったことがありました。ぼくは普段、外国人と接する機会がなく英語も話せません。どこかで外国人に対して恐怖心を抱いていたんです。
でも、その出来事を事務所の社長に話すと、「そういう時は、せめて英語が話せないことを伝えたり、わかる範囲で少しでも教えてあげたりしないと」と諭され、「自分がその人の立場だったら傷ついたかもしれないな」と反省しました。
お互いが、「自分だったらどう思うか」と歩み寄ることができれば過ごしやすくなるのでしょうね。一方で、国や地域が「多文化共生」とあまり声高に言い過ぎてしまうのは、少しプレッシャーに感じてしまうかもしれません。「外国人を受け入れなくては」「思いを汲み取らなくては」と思いながら日々生活するのは大変なことですから。
ぼくは、少し肩の力を抜いて、多文化共生を「友だちづくり」として捉えられたらいいなと思っています。日本人同士だからといって気の合う人ばかりではありませんよね。でも、友だちの対象を外国人にまで広げれば、きっと気の合う人が出てくる。
江戸川区には、たくさんの外国人が住んでいると聞きました。ぼくのようなミックスルーツの子も増えていると思います。大人自身が、ちがいを受け入れて多様な友だちを増やしていくことで、子どもたちに、「今、君の見えている景色だけが世界のすべてじゃない。世界は広いんだよ」というメッセージが伝えられたら素敵ですね。
東京都出身。中学生の時にバスケットボールの才能が開花し、大学まで数々の大会で活躍した。その後、タレント・俳優として芸能界デビュー。情報番組のリポーター、映画・舞台・ドラマへの出演、講演会への登壇など幅広く活動している。2022年7月には、『いま君のいる場所だけが、世界のすべてじゃない』(潮出版社)を出版。