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はるな愛さんが語る、誰もが自分らしく暮らせる社会とは

 性的マイノリティに対する理解がまだ浸透していなかった頃から、お茶の間の人気者として活躍し続けているはるな愛さん。性別に捉われず、自分らしく生きることを選んだはるなさんだからこそ感じる時代の変化、そして多様性を認め合える社会を実現するために私たちに必要なことをお聞きしました。

はるな愛さん

テレビに出始めた頃と今、変化を感じることはありますか?

LGBTQという言葉は浸透したけれど、本当の理解はまだこれから

 私がテレビに出演するようになったのは2007年頃、松浦亜弥さんのものまね「エアあやや」が、お茶の間に受け入れられたことがきっかけです。「口パクであややのものまねをしているあの面白い子は誰? えっ男の子なの?」という感じでした。本名の“大西賢示”という名前で「男の子が、女の子になった」という売り出し方をしていたら、おそらくあの当時あそこまでテレビに出られていなかったと思います。それこそ、エアあややが受け入れられる以前は、オーディションを受けても「ニューハーフキャラは、テレビに出て食べていくのは厳しいぞ」と言われたこともあったほどです。

 今は時代が進んで、さまざまなキャラクターの人たちが出てきて、私自身もやりたいことを自由にできるようになっています。私は、大西賢示であることを「おっさんやん!」といじってもらうことも大好きなので、共演者の方たちとテレビでそういったやり取りができるのはすごくうれしいなと思っています。

 ただ、私がテレビに出て表現することが、LGBTQのすべてだと思われてしまうのは、心苦しく感じることがあります。たとえば、「愛ちゃんがOKだから、あなたにもそういういじりをしてもいいでしょ」と勘違いをして、嫌がっている人をいじってしまう……などですね。みんなが同じ感覚というわけではないんです。

 LGBTQは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニングそれぞれの頭文字を取って生まれた性的マイノリティを表す総称です。しかし、本質を表す言葉ではないので、そのカテゴリー分けにしっくりくる人は何人いるのだろうと考えることがあります。誰一人として個性が同じ人はいないように、人の数だけこの頭文字はあります。だから、「愛ちゃんはTだよね」と言われるのも少し違う。昔に比べて、LGBTQという言葉も浸透し、理解も進んできましたが、まだまだ過渡期にあると感じています。人はみんなそれぞれ違うということを、もっと多くの人に知ってほしいなと思います。

はるな愛さん

多様性を認め合う社会を実現する上で、大切なこととは?

知らないこと、分からないことを素直に「教えてほしい」と言い合える環境

 2020東京パラリンピックの開会式に出演させていただいた時に、本当にたくさんの気づきがありました。ダンサーみんなで振り付けについて話し合っていると、「この人はしゃべれなかったんだ」「耳が聞こえなかったんだ」と途中で気づくことがあったんです。でも、それが触れてはいけない特別なことと感じたことはまったくありませんでした。あのチームはいろいろな人がいることを理解したうえで集まってきたチームなので、率直にコミュニケーションができていたんですね。

 例えば、耳が聞こえないダンサーは音楽が聞こえないので、「この振り付けは彼女に合わせよう」とみんなで話をする。話すことができない子には「自分が通訳できるように頑張るね」と声をかける。みんなが当たり前にそういうことをしていました。そういったやり取りを通してお互いを知る中で、自然とそれぞれの個性を認め合うことができたし、一緒にいてとても居心地よかったです。

 それからひとつ、忘れらない気づきがありました。私たちは、毎回楽屋に貼られるスケジュール表を見てその日のスケジュールを確認するのですが、ある時、スケジュール表が貼られると、同じ楽屋を使っていた小人症で背が低い女性が椅子の上に乗って見ていたんですね。それを見て、ハッとしました。「背の低い人や車いすの人もいるのに、私たちの目線に合わせてスケジュール表を貼ってしまってごめんなさい」と。

 ただ大事なのはこの「気づく」ことなんです。気づいたときに自然と相手に「ごめんなさい、知らなかった」と素直に言えて、「困っていることを教えてくれる?」「手伝えることはある?」と聞けることは、多様性を認め合う社会を実現するうえで大切なことだと思います。障がいの有無やLGBTQに関わらず、お互いが不得意なところを言い合えたり、補い合えたりできる環境というのは、すごく大事だなとあらためて感じました。

はるな愛さん

はるなさんが理想とする共生社会とは?

「人を知る」という意識が、多様な人々を認め合える社会をつくるきっかけに

 江戸川区では、誰もが安心して自分らしく暮らせる社会の実現を目指してさまざまな取り組みを行っているとお聞きして、とても興味を持ちました。江戸川区にはロケなどで来ることも多く、いつも昔ながらのつながりが残る温かいまちだと感じています。しかも、江戸川区には同性パートナーシップ証明制度があると知って、素敵な取り組みだなとうれしくなりました。この制度があることで、病院などで家族しか入れない場面でも立ち会えるようになる場合があるなど、当事者にとっては大きなメリットがあります。ただ、制度を受けるには、さまざまな条件を満たす必要があるなど、まだまだハードルが高いのが現状。この辺りは行政を含め、いろいろと慎重に試行錯誤していくことが必要なのかなと感じています。

 また、「人を知る」という意識も、共生社会を実現するうえでは欠かせません。「自分は関係ない」「自分さえよければいい」ではなく、隣に居合わせた人が困っていたら「何かありましたか?」と聞けるかどうかがとても大事。そこから、隣の家の人、学校の隣の席の人、その地区の隣の地区の人……と声を掛け合って、さまざまな人とつながっていく。そんなふうにして、誰もが安心して暮らせる社会をつくっていけたら理想ですね。

 先ほどお話をした、小人症の彼女が「みんな違って当たり前で、みんな一緒がもっといい」と言ったことがありました。この言葉を聞いたときに、本当にその通りだなと思ったんです。人はそれぞれ違うことを知ったうえで、みんな一緒に暮らしていく——。人と人とのつながりが根付いている江戸川区だからこそ、多様性や共生社会の実現を牽引するまちとして、これからもどんどんさまざまな取り組みにチャレンジしていただきたいです。

プロフィール

はるな愛さん

はるな 愛 氏

大阪府出身。タレント。松浦亜弥の口パク芸である「エアあやや」で大ブレーク。以後、数々のバラエティ番組に出演するほか、歌手や女優、声優としてマルチに活躍。2009年には、タイで行われたミスインターナショナルクイーン2009」で世界第1位となる。近年は被災地への訪問、炊き出しのほか、自身が経営するお店で子ども食堂を開催するなど、社会貢献活動にも力を入れている。