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北澤豪さんが考える、共生社会の実現のためにスポーツができること

 スポーツの力で共生社会を実現するためにできることとは、どのようなことなのでしょう。元プロサッカー選手であり、現在は「日本障がい者サッカー連盟(JIFF)」の会長を務める北澤豪さんに、私たちが取り組むべきことなどについてお話を伺いました。

北澤豪さん

海外と日本で、障がい者スポーツに対する理解や考え方の違いを感じますか?

スポーツには「勝負」以上に大切な役割があることに目を向けてほしい

 “ごちゃまぜ”メンバーでのサッカーは、中学生の頃に所属していた読売サッカークラブ・ジュニアユース時代からやっていました。外国人のメンバーが、耳が聞こえない子や目が見えない子を呼んできて一緒にプレイする機会が多かったので、当時はそれが当たり前だと思っていました。しかし、大人になって世の中を理解していくと「どうやら、そうではない」。海外と日本とでは、障がい者スポーツに対する理解やスポーツを観戦する側の意識に大きな違いがあることに気づきました。
 一番の違いは、スポーツの文化としての成熟度だと思います。海外ではスポーツは「見る」ものであると同時に、「支える」ものでもあります。ですから少年サッカーの大会でも、お金を払ってたくさんのお客さんがスタジアムで観戦します。それは、子どもたちに良い経験をさせ、成長のための本格的な場をつくってあげることが、観戦する側の役割だと思っているからです。しかし日本の場合は、「お金を払うのは、いいものを観に行くとき」いう意識がまだまだ強い傾向があります。でも、時代はもうそこではない。スポーツが持つ「勝負」という側面ばかりに焦点を合わせるのではなく、例えばその先にある地域が再生されたり人が育ったりというスポーツの本質的な力を生かしていくことが大事だと感じています。実際、障がい者サッカーのプレイヤーたちはみんな「サッカーを通して社会に変化を起こしたい」「目の前の勝負だけではなく、その先にあるものをゴールに設定したい」という思いのもと、パラリンピックで戦っていました。そんな彼らのプレイを観戦する中で、スポーツの価値が新たに創出されていったことを、きっとみなさんも肌で感じたのではないでしょうか。

北澤豪さん

「東京オリンピック・パラリンピック2020」をきっかけに環境の変化はありましたか?

スポーツは、限られた人たちだけのものから「誰もが」楽しめる時代へ

 僕は現在、2016年に設立したJIFFの会長として日本サッカー協会と協働し、7つの障がい者サッカー団体の強化・普及を促進するための活動をしています。団体メンバーと合宿することがあるのですが、いざ施設に行ってみると車いすが入れなかったり障がい者も使えるトイレがなかったり。障がい者が日常的にスポーツをできる環境が、限られていると実感します。本来スポーツは「誰もが」できるものであるはずなのに、実は限られた人のものになっていたんですね。それがパラリンピックを契機に施設が増え、障がい者たちが日常的にスポーツをできる環境が整ってきました。特に江戸川区では、障がい者スポーツを22競技もできる環境が整備されているのはすごい! 誰もがスポーツをできるこの環境を生かして、単に障がい者スポーツを知ってもらうだけの体験会ではなく、スポーツが持つ本質的な「強み」を伝えていってほしいなと思います。例えばブラインドサッカーでは、目が見えないからこそ非常に高いコミュニケーション能力をもってプレイしています。しかも、「本当は見えてるんじゃないか⁉」と思わんばかりのテクニックを見せてくる。ブラインドサッカー体験を通してそういった障がい者の能力に触れることで相手を理解したり尊敬したり、共生社会の実現のために大切なことに自然と気づくことができます。そうやってスポーツを手段として、共生社会の実現につなげていきたいですね。

北澤豪さん

スポーツで誰一人取り残さないために、北澤さんが普段から意識していることは?

何のためにルールを設定するのか。ルールは手段であり、大事なのはその目的

 障がい者や健常者がごちゃまぜになってスポーツをするときには、「より競技を楽しくするため」という視点でルール設定をしています。例えば、「走っちゃいけない」というルールの“ウォーキングサッカー”。走れるサッカーだと、肉体が優れた人が有利になったり電動車いすはスピード感が違いすぎたり、平等には楽しめません。また誰でも積極的にボールに触れられるよう、相手のチームからボールを奪えるのはパスボールのみで、人から直接取ってはいけないルールにしています。これらのルールは何のために設定されたものかというと、サッカーの上手・下手や運動神経、身体的な特徴も関係なく「誰もが一緒に楽しめるサッカー」にするためなんですね。
 このルールに対する考え方はスポーツだけに限ったことではなく、社会活動の中でも同じことが言えます。そこにいる人たちの顔ぶれや特徴を見ながら、みんなが平等に幸せに暮らせるような目標を掲げて、柔軟にルールを検討・変更することが大事です。これは、江戸川区が掲げる「ともに、生きる。」を実現するためのヒントになるのではないでしょうか。

 パラリンピックのおかげでパラスポーツが注目されるようになりましたが、まだまだ認知度が低く、海外のように市民権を得ていないのが現状です。それは「障がい者の人たち」の話であると、どこか他人事だと感じているからではないでしょうか。しかし、超高齢社会の今、自分たちも年をとったり病気をしたりして行動が思いどおりにならなくなることもある。これは誰にでも起こりうる、「我々みんな」の話なんですね。だからこそ自分ごととして捉え、ユニバーサルデザインされたまちづくりとはどんなものなのか考えていきたいですね。特に、これからの未来を担う子どもたちに、共生社会を実現し持続するために必要なユニバーサルな視点を持たせるよう導くことが大事なのだと思います。

プロフィール

北澤 豪氏

北澤 豪氏

1968年東京都出身。サッカー元日本代表、サッカー解説者、日本サッカー協会参与、日本障がい者サッカー連盟会長。

海外へのサッカー留学、日本代表選出を経て、読売クラブ(現東京ヴェルディ)へ入団し、Jリーグで活躍。日本代表選手としても多くの国際試合に出場。現在は、サッカー解説者のほか、社会貢献活動へも積極的に取り組み、スポーツやサッカーのさらなる発展、普及に向けてさまざまな活動を行っている。