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のんさん流 ハードルを下げたSDGsの取り組み方

 みなさんも、着られなくなったけど、思い入れがあって捨てられない服がクローゼットに眠っていませんか? その素材を活用して、新たな洋服にしたり、おしゃれな小物入れなどに作り替えて新たな価値を生み出す「アップサイクル」という取り組みをおこなっているのが、女優、そして「創作あーちすと」として活躍するのんさんです。今回はこうした活動をきっかけに、ジャパンSDGsアクション推進協議会※1から「SDGs People※2」第1号に選出されたのんさんにお話をうかがいました。

※1 2020年7月、民産官学が一体となり「SDGsのアクションを広げていこう!」 という目的のもとに結成。SDGsのより一層の認知拡大・行動の促進を行う。
※2 「SDGs People」とは、SDGsを実践する人のこと。

のん氏

環境保全を意識してアップサイクルを始めたのですか?

“もったいない”という気持ちから始めたことが、SDGsにつながった

 元々、裁縫が好きで布を買ってきて一から洋服を作っていたのですが、リメイクには自信がなく積極的にはやっていませんでした。でも、私の家には似合わなくなってしまったお気に入りの服や、着なくなったけど捨てられない服がたくさん溜まっていたんですね。それを見ていると「もったいないな」という気持ちが大きくなって、捨てたくない想いから「今の自分が着られる服に作り替えよう!」と、リメイクを始めました。なので、始めはまったく環境のことは意識していなかったんです。

 でもSDGs Peopleに選ばれて、改めてSDGsについて調べてみると、SDGsの17の目標の中にある「つくる責任 つかう責任」を見つけました。そこで初めて無意識にとっていた私の行動は、 “アップサイクル”になるんだということに気づいて、この目標にとても共感しました。今あるものをよりすてきなものにするという考え方を知った時は目からうろこでしたし、日常的に自分がしていることが地球のためになっているんだとすごくうれしくなりました。

のん氏
のん氏

のんさんがリメイクした服(※のんさん公式Instagramより)

SDGsに関わるということは、人やお金を動かすような規模の大きなことだと思っており、安易な気持ちで気軽に手を出してはいけないと思い込んでいたのですが、共感できる目標があったことで、今の自分の行動でいいのだと気づきました。大きなことを最初からやるのではなく、まずは17の目標から自分が共感するものを探す。「これがSDGsなんだ」と気づくと、隣にある目標にも「これもそうなの?」と芋づる式に意識が広がっていく気がします。

今はまだ、世の中の多くの人が「大いなる意思をもっていないと、飛び込んではいけない」と構えているように見えます。でも、もっとラフで良いのだと思います。エコバッグを使うことやごみを分別するのと同じように、日常化していくといいなと思います。そのためにも、SDGs PeopleとしてSDGsに対するハードルを低くできるような発信をしていこうと思います。

SDGsの考え方は、表現者としてののんさんに影響を与えていますか?

自分では意図していなくても、自然と作品にSDGs的な発想が出ているみたい

 私は音楽活動をしたり映画製作をしたり、女優以外の表現活動も行っています。コロナ禍には、自分が主催している音楽フェスを中止にした一方で、映画「Ribbon」を企画し、脚本・監督・主演も務め、劇場長編作品に初挑戦しました。この作品は、コロナの影響で卒業制作展が中止になってしまった美術大学生を題材にしています。見てもらうために作っていたはずの卒業制作作品が、成す術もなく人の目に触れる機会を奪われ、ゴミのように壊したり破棄されなければならなかったり…そんな状況に主人公は、作品だけでなく、自分自身もゴミになっちゃったと思う悲しさなどいろいろな感情を募らせていくんですね。どうしようもない状況からくる苛立ちから、家族や、親友と衝突してしまうこともあるのですが、未来や青春を奪われてしまった主人公たちが困難を乗り越えながら再び前を向いて動き始める様子を描いた作品です。

のん氏

 この脚本は、インターネットで見た美大生のインタビューにあった「1年かけて作った作品がごみのように思えた」という言葉から発想を得たんです。不要不急なことは控えなければならない日々が続き、美大生にとっては、芸術や文化が優先されないもどかしさもあったと思います。そうやって我慢していた鬱々とした気持ちは未だに解消されていないし、その気持ちをぶつけられる相手もいないんですよね。爆発させたくてもできない想いを、表現者としてみんなに代わって伝えるような映画を作りたい。我慢していた気持ちを晴らして前に進めるように、どうにかこの時の人たちの想いを切り取らなきゃいけないと思って必死に脚本を書きました。

 実は自分の気持ちを奮い立たせるために脚本を書いた部分も大きいのですが、劇中の美大生たちの荒んでしまった想いが、人との衝突や共感によって再生していく姿に、SDGsの根底となる「人と人のつながり」だったり「人や自分を認める大切さ」だったりを感じ取ってくださる方もいるようです。意識していたわけではないのですが、自然とSDGs的な考え方が作品に現れたのかなと思います。観ていただいた方にSDGsの根底にある「人と人とのつながり」や「パートナーシップ」の大切さを実感していただけたら嬉しいです。

のん氏

江戸川区が掲げる「ともに、生きる」という考え方についてどう感じますか?

人とのつながりは、本能的に必要なこと。隣近所とつながっているってすてき

 私は映画を作るなど人と関わる仕事をしているので、もちろん人と関わることはすごく好きですが、ハグをしたり握手をしたり過度な触れ合いは得意な方ではないと思っていました。しかし、コロナ禍で制限されて誰とも会えない状況になって、久しぶりに人に会えたら「わ~!!」って抱きつきたい気持ちが沸いてきたんですね。必要なさそうに思っていたけど、人との触れ合いや直接会ってのコミュニケーションってこんなに大事だったんだとすごく実感しました。これって、人が本能的に必要としていることだったんですよね。

 私の育ったまちでは、すれ違う人がみんな顔見知りでした。学校でも「近所のおじいちゃんおばあちゃんにもあいさつしなさい」と教わりました。当時はそれが面倒に感じることもあったのですが、今となってはすごく良かったなと思うんです。江戸川区もそうやって、人と人がつながっているまちを目指していると聞きました。

 そういった人として大切なことを取り組みのスローガンにしているのは、とてもすてきなことだなと思います。自分の知らないことを知っている人や、自分の知らない場所に住んでいた人に会えることは、「考え方が違う人ってこんなにいるんだ」「いろんな人がいるんだな」ということを知るきっかけになります。そういった多様性に子どもの頃から触れられると、より自然なものとして捉えられていくはずです。江戸川区の未来を見るのが今から楽しみです。

のん氏

プロフィール

のん氏

のん氏

1993年兵庫県生まれ。女優、創作あーちすと。ジャパンSDGsアクション推進協議会より、SDGs People第1号に選出される。2016年公開の劇場アニメ「この世界の片隅に」で主人公・すずの声を演じ、第38回ヨコハマ映画祭「審査員特別賞」を受賞。初の劇場長編監督作品となる「Ribbon」が公開中。

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Ribbon
公開中
出演:のん 山下リオ 渡辺大知 小野花梨 春木みさよ 菅原大吉
脚本・監督:のん
製作統括:福田淳 エグゼクティブ・プロデューサー:宮川朋之
クリエイティブ スーパーバイザー:神崎将臣 滝沢充子 プロデューサー:中林千賀子
特撮:樋口真嗣 特撮プロデューサー:尾上克郎 音楽:ひぐちけい
主題歌:サンボマスター「ボクだけのもの」(Getting Better / Victor Entertainment)
配給:イオンエンターテイメント
制作プロダクション:ブースタープロジェクト
製作:日本映画専門チャンネル non スピーディ コミディア インクアンク
©「Ribbon」フィルムパートナーズ
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(ヘアメイク:森かおり スタイリスト:町野泉美)