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義足のモデル・海音さんが語る、「みんな一緒」で生きやすい社会とは

 2020年8月YouTubeで配信された義足モデルのファッションショー「切断のヴィーナスショー」。その舞台を飾った一人が、海音(あまね)さんです。ジュニアモデルとして活躍していた矢先に血管の難病に襲われ、やむなく右足を切断。義足になった海音さんが思った事とは……? そして、海音さんが思う誰もが生きやすい社会の在り方について伺いました。

海音さん

義足をカミングアウト。不安はなかったのですか?

不安は一切なし!「海音は海音」と受け入れてくれました

 私が最初にモデルとしてデビューしたのは、5歳の時です。アパレルブランドの広告や雑誌の表紙などの撮影ではいろいろな服を着られるので本当に楽しく、このころから「大きな舞台に立ちたい!」と思っていました。でも、12歳の時に足の病気になってしまい、医師から切断しなければならないと聞かされました。それでも「義足になってリハビリを頑張れば、歩けるようになるよ」という励ましの言葉で、「切断は怖いものじゃない!歩けるようになるなら、義足にしたい」と、むしろ前向きなものになりました。

 それでも手術後は「義足になってかわいそう」と思われるんじゃないかと自分の中で決めつけてしまい、退院する前から「義足であることをひた隠しにしようと」決めていました。ばれないようにするためにも、きれいに歩けるようにと、リハビリの時間が終わっても、階段を上ったりナースステーションの周りを何周も歩いたり…。退院してからも、道路の白線の上を歩いて真っすぐ歩けるように特訓をしました。

 学生時代は義足であることを必死に隠す生活を送っていたのですが、義肢装具士の臼井 二美男(うすい ふみお)さんの紹介で写真家の越智 貴雄(おち たかお)さんに出会って“隠す”という考えが一変しました。「義足をハイブランドのようなアクセサリーにしたい」と越智さんに言われて、「義足は恥ずかしくなんかない。かっこいい存在にしたい!」と、病気を機に退いていたモデルという仕事を再びやりたいと思ったんです。

「切断のヴィーナス」の舞台で再デビューが決まって、まず「する」と心に決めたのが、友達へのカミングアウトでした。今までは受け入れてもらえないんじゃないかと不安もあって言えなかったのですが、不思議とこの時には不安は一切ありませんでした。キッズモデル時代からの友達に打ち明けた時、「海音は海音だから、何も変わらないよ」と言ってもらえたことは、とてもうれしかったです。

これからモデルとして、どんなことを伝えてきたいですか?

義足は私にしかない個性

 モデルとしての次の夢は、大好きなミニスカートを着てファッション誌の表紙を飾ること! そして、たくさんの人に少しでも勇気や希望を届けられる存在になることです。

まだまだファッション誌で、義足のモデルが誌面に登場することは、一般的ではありません。でもハンディキャップと思われがちの義足も、私にとっては私にしかない個性です。「義足でかわいそう」といった感情ではなくその個性を生かして、「かっこいい!」と感じてもらえるようなモデルを目指しています。そして、私の活動を通して、もっともっと義足の事や障害のある人の事も知ってもらえたらいいなと思います。

一言で義足といっても、私の場合は日常の生活用とショー用のものを持っています。その他にも世の中には競技用などもあります。個人の特徴に合わせて作るので形もさまざまで、本当に多種多様です。でも、私が義足になるまでそんなことを知らなかったように、まだまだ認知が広がっていないのが現状です。もしかしたら、小さな子どもはたぶん義足の存在すら知らないかもしれません。偏見はおそらく、「知らないこと」が原因で起こることだろうから、大人から小さな子どもまでいろいろな人に知ってもらいたいです。

 子どもの頃から多様性に触れることができたら、きっと「みんな違うけど、みんな一緒の人間」ということが特別なことではなくなると思います。私のモデル活動も、そういったきっかけになれるよう頑張っていきたいです。また、江戸川区ではSDGsや「ともに、生きる。江戸川区プロジェクト!」などで子どもを対象にした企画があると聞きました。楽しみながら多様性を理解できる機会が、今後もっと増えるといいですね。

どんな社会になると、誰もが生きやすくなると思いますか?

人と違うところが「いいところ」だねと、認め合える社会

 義足になって気付いたのですが、世の中には「小さな段差」が意外と多いんですよね。健常者の方であればなんの問題もない段差なのかもしれませんが、義足だったり杖をついていたりすると、その小さな段差に引っ掛かって転んでしまう可能性があります。こういったハード面の改善が、もっともっと進むといいなと感じます。

 それから、先日「ともに、生きる。江戸川区プロジェクト!」の告知ポスターを見たのですが、広い河原に外国人や車いすの人、大人も子どもも描かれていたのがとても印象的でした。

私は、金子みすゞさんの詩『私と小鳥と鈴と』の一節である「みんなちがって、みんないい。」という言葉が好きなのですが、そのポスターに描かれた風景は、まさにこの言葉の通り! 人は違っていて当たり前です。人と違うところを「悪い」と捉えるのではなくて、人と違うところが「個性」であり「いいところ」だねって、みんなで認め合えるような「みんな一緒」の世の中になったらいいなと思います。

私のように病気で体の一部を失ってしまったり、最近だとコロナ禍の影響でお仕事を失ってしまったり、いろいろな事情で「生きるの大変だなぁ…、つらいなぁ…」と感じることもあるかもしれません。でも、人生は絶対に悪いことばかりが起きるようにはなっていません! つらいことや苦しい状況の中にも、きっと楽しめることがあるはずです。

 どんなに小さな夢でもいいからそれを見つけて、夢に向かっていけたら必ずいいことがあると信じて、進んでいってほしいと思います。

海音さん

プロフィール

海音さん

海音さん

2001年大阪府大阪市生まれ。5歳からキッズモデルとして活動開始し、10歳からはアイドルグループにも所属。12歳の時に多発血管炎性肉芽腫症を発症。右足が壊死(えし)し、脚を切断する。義肢装具士やカメラマンとの出会いを経て、2020年モデルとして再デビュー。義足を着けた大勢のモデルが出演する「切断ヴィーナスショー」で華々しい復活を遂げた。

(撮影:越智 貴雄/カンパラプレス)